『ブスのきもちはわからない』

へちま×劇団てあとろ50' 44期新人企画『ブスのきもちはわからない』終演しました。

この公演についての色々、きっと絶対に忘れないだろうけど、薄れてしまうとは思うからきちんと残しておきたいと思った時、当然140字じゃ収まらなくて、でもだらだらと垂れ流すのはなんとなく嫌で。だから、このタイミングで自分のサイトを作りました。

『ブスのきもちはわからない』では主宰・作・演出でした。どれも楽しかったです。大変だったけど嫌いにはならなかったし、全部とっても面白かったです。至らない点もあったと思いますがたくさんの方のおかげでどうにかやれたと思います。ありがとうございました。

フライヤー裏に書いた文章です。こういう話を書きました。

とにかく、自分が気持ちよくなるためのセリフを書かないように気をつけました。こういうシーンにしたいからとか、こういう立ち位置のキャラだから、とか。書いちゃった方が楽なんだけど、楽しないように書きました。
あとはもう、ぐちぐちぐちぐち考えました。考えたくないことも考えました。そのせいで自分が見ないようにしていた、気づきたくないことにもたくさん気づいてしまいました。書いていて楽ではなかったし、今までで一番苦しかったです。
だから、役者のひとりに「なんでもないセリフがすごく絶妙で好き」と言ってもらえたことが、とても嬉しかったです。

鵺的の主宰・高木登さんがTwitterにコメントをあげてくださいました。
加えて、
「どれも血肉が通った人間の説得力あるやりとりばかりで感心しました。「嘘」がないんですよ。硬く言うと、どれも「肉声」だった。魂削ってるなと思ったのはそこです。自分の血を流して書いてる感じが強くしました。」
というお言葉もいただきました。ありがとうございました。

また、月刊「根本宗子」の主宰・根本宗子さんにもTwitterにてご感想をいただきました。
こちらも、とびあがるほど嬉しかったです……ありがとうございました。

もちろん、お客さん一人ひとりのご感想も、すごくすごく大切で、嬉しかったです。アンケートは全部読ませていただきました。本当にありがとうございました。
「これは、豚と狼の物語。あるいは、わたしとあなたのお話です。」という最後の文は、主宰挨拶文にも載せたものです。こういうのを説明するのは野暮なので詳しくは書きませんが、わたしから、あなたに対して、なにかができていればすごく嬉しいです。

ただ、もっともっと、頑張らなきゃなとも強く思いました。まだまだ荒削りだなあと。童話との関連性やシーン構成、上に偉そうに書いたセリフの書き方も。学ぶところが多かったからこそ、もっと次はこうしたいと思うところもたくさんありました。これで満足せず、より面白くて切実なものが書ける脚本家になりたいです。

演出
「演出」って、なんなんでしょうね(いきなり?)。

実は、お客さんに今回一番褒めていただいたのが演出でした。ミザンスとか場転のこととか。でも、これはかなり感覚的にやってしまったところがありました。褒めていただけて嬉しい反面、感覚でやってしまった分の反省は尽きません。もちろん頭で考えた部分はあったんでしょうが、それさえも曖昧なのです。感覚的なものに後付けで説明を加えてしまったのではないかと……それの善し悪しさえもわたしの中では曖昧です。

わたしは、演出家は誰よりも台本を解釈しなければいけないと考えています。作の人間(今回はわたしですが)が意図したものを全て拾って、解釈して、舞台上にのせるのが仕事だと思うからです。それこそ後付けのような、というと語弊があるかもしれませんが、「台本」という文字の羅列を「演劇」にするのが演出家の仕事だと思っています。

今回、演出していてすごく楽しかったし、面白かったです。やっぱりただの文字だったものが会話になったり空気になったりしていくのは本当に興味深いものだなあと。作の意図に反しないようにしつつ、役者が気持ちよく芝居できる塩梅を探すのは難しいことでしたが、とっても面白かったです。

役者
なんと言ってもメイン6人の役者がみんなすごかったです。もう、本当に、とてつもない人たちです。わたしの「作の脳内上演を超えて欲しい」とか「セリフに命を入れて欲しい」といった漠然とした要求にきちんと応え続けてくれた人たちです。全員が。みんながみんな返してくれるので、恐ろしいくらいでした。
片山さなみ(ケイコ)
この人は、すっきりしたい人なんだなあと思っていました。反面、きっといつまでもすっきりできない人なんだろうなあとも思っていました。
この話を書こう、と思ったはじまりは実はこの人です。すっきりしたいけど、すっきりしたら今度はすっきり出来なかった今までの自分に対してすっきり出来なくなっちゃうみたいな。誰にでもそういう部分ってあると思うんですが、さなみもケイコも、それがとても強い女の子だと思います。
彼女はすごく器用で、いい意味で受動的だからこそ、自分が満足するということに関して他者の評価が必要不可欠だし、むしろそっちの方を重要視している人なんだろうと思っていました。だからこそ、「楽ステだけだったけど、はじめて自分で満足できた」と言ってもらえたのが嬉しかったです。これにも善し悪しなんてないと思いますが、変化があったということを素直に嬉しく思いました。

廣瀬楽人(祐介)
この人の観察眼は恐ろしいほど鋭いです。そして、それが自分にも鋭いまま向けられているところが本当にすごいと思います。
作が何を考えているか、演出が何を考えているか、自分は何を求められていて、それに対して自分は何を返しているのかを常に考え続けてくれました。誰よりも台本に書き込みをしていたのも、実は知っています。
「脳内上演を超えて欲しい」というわたしの要望に、彼は「脳内上演より何倍もいい芝居を見せる」という形で応えてくれた役者だったし、そんな彼の気概にわたしはとても刺激を受けました。彼と演劇を通して向き合えたことが、本当に楽しかったです。
飛山弘介(翔太)
今回、役者陣を引っ張ったのは実はこの人だとわたしは思っています。消して器用でなく賢くなく、しかし誰よりも貪欲で実直な彼は、信じられないほどの爆発力があります。そんな彼の爆発力は不安定ですが、人への影響力は抜群だったと思います。
楽人くんが「脳内上演より何倍もいい芝居を見せる」役者なら、彼は「脳内上演と全く違ういい芝居を見せる」役者だと感じているのですが、わたしはそれってすごく難しいことだと思うのです。作や演出が□だなあと考えていたところにドーン!と△をぶつけてきて、しかも、ああ△でもいいじゃん、と思わせる彼は、とんでもないです。でもそれは決して偶然ではなく、彼がひたむきに考え尽くした上で役の軸をブレさせずに全く違う芝居を見せているから、作や演出も納得させられるし、なにより楽しいんだろうなと思いました。すごい役者です。

毛利玖(アカリ)
この人はセリフを自分のものにするのがとても早い役者だなあと思いました。浮いてるセリフっていうのがほとんどなくて、1つセリフの言い方が変わったら全部のセリフの言い方が変わってるし、シーンそのものの空気も全然違うものになって返ってくるので、驚かされました。そう簡単にできることではないと思います。
彼女に演出をつけるときは、セリフ自体ではなくシーンの雰囲気につけていたような感覚でした。シーン全体について話すだけで彼女の方からセリフや間をすっと変えてくれて、きちんと成立させてくれる彼女は、すごいです。
象徴的で普通、という難しい役を真実味のある芝居で演じてきってくれました。役に悩むというよりは、役に対しての興味から役を掘り下げていく作り方をしてくれたように見えたのですが、それもすごく面白かったです。
髙田みき(ミズキ)
この人は伝える力とか引き込む力が非常に大きくて、舞台上にいたらずっと観てしまうような役者です。複雑な感情は伝わりづらいし、難しいから解らないと観ている人に諦められてしまうことが多いですが、彼女のパワーはそれを伝えて観ている人引き込むことができるなと思います。とても魅力的な役者です。
女性陣の中で役と自分が最もかけ離れているのがみきちゃんだったと思います。でも、一見「普通」ではない女の子の「普通」な部分を演じ切ってくれて、ミズキというキャラを生きた人間にしてくれました。彼女がこの役をやってくれて本当によかったです。

山田泰生(春馬)
彼はすごく器用で、思い切りがとにかく良い役者だなあという印象でした。それが好きだったしそこを尊敬していた反面、この人のリアリティのある芝居をもっと観てみたいと思っていました。
今回の登場人物は6人は全員難しい役でしたが、春馬くんは一段と難しかったと思います。動機がすごく人間味のあるものだった分、真実味がないと恐ろしく魅力的でなくなってしまう役でした。同じ劇団の同期ではありますが演出するのは初めてだったのでこちらも言葉選びが手探りで、そこで彼をずっと悩ませ苦しませてしまいました。
しかし、最終的には一番伸びた役者でした。春馬というキャラを道化で終わらせず、人間味のある魅力的な人物として舞台にあげてくれたことは、本当にすごいと思います。言葉での説明に頼らず芝居で伝えることはとても難しいことですが、彼が諦めずにやり続け、やり切ってくれたことでこの話を成立させてくれました。今回でこの人を素直にうまいなと思ったし、作と演出のわたしは彼の芝居に負けたなと感じました。彼はやっぱり信頼できる役者です。

少し演出の話に戻ってしまいますが、わたしは「台本」という文字の羅列を「演劇」にするのが演出家の仕事だと思っているので、どうにか舞台に上げられる形にしなければと思って稽古していました。その時、役者の力で立ち上がるのを待つか、演出の力で立ち上げてしまうか、迷ったことが何回かありました。梅棒の伊藤今人さんの言葉をお借りすると後者は「初日までの完成度を見越して色々と妥協し、諦めていく作業」です。でも、それより前者の方が創作的で、面白くて、ずっと楽しいのです。
結果的に、今回の演出はすべて前者でした。これは偏に役者の力です。だからこそ、すごい人たちだったなあと心から思います。
主宰
今回は「44期新人企画」だったので、同期8人全員に出演をオファーしました。一方で、スタッフセクションのチーフを務めることが劇団としての絶対条件だったので、それとの兼ね合いが非常に難しかったです。
舞台監督、舞台美術、音響、照明、制作どのセクションが欠けても公演は成り立ちません。そんな重要なスタッフさんのトップを務めてくれて、役者オファーも受けてくれた同期には感謝しかないです。本当に、ありがとう。
最後に、この公演に関わってくださった全てのみなさま、本当にありがとうございました。
そして、こんなに長い文章を読んでくださったあなたも、ありがとうございました。

これからもよろしくお願い致します。

(この記事に掲載した舞台写真は全て飯田奈海様撮影のものです。)

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